ご挨拶

 慢性腎臓病の発症予防・進展抑制への対策は、国民の健康維持・推進のために喫緊の重要課題です。2005年の調査により、日本の慢性腎臓病患者は約1330万人と推定され、実に成人8人に1人が慢性腎臓病であると推定されています。末期腎不全に至り、透析療法を受けている患者は2021年末で約35万人となり、増加の一途をたどっています。また、心血管系疾患、悪性腫瘍などの発症リスクは、健康な人と比較して明らかに高く、それらも含めると慢性腎臓病から生じる問題は多岐にわたっています。本研究班「難治性腎障害に関する調査研究」では、様々な活動を通じて、慢性腎臓病の発症予防・進展抑制といった大きな課題に取り組んでいます。今後私たちは、以下の内容について検討していきます。

 IgA腎症、紫斑病性腎炎、急速進行性糸球体腎炎、抗糸球体基底膜腎炎、一次性ネフローゼ症候群、一次性膜性増殖性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎は、難病に指定されています。このうちIgA腎症、急速進行性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎に関して、診療を行う上で指針となりうる診療ガイドラインが作成され、公表されています。今後、これらの診療ガイドラインをさらに医療者・患者の方々によく知っていただき普及していくとともに、効果的に用いられるように運用していきます。

 腎臓の各疾患の患者数がどれくらいで、どのような状況にあり、治療によりどのようになっていくか調査し、データを蓄積していきます。これらをもとに診断基準、重症度の分類、治療指針を検証して、診療ガイドラインを改訂していきます。診療体制の整備を行いながら、医療水準が向上するように貢献していきたいと考えています。

 指定難病の判定・重症度の分類が、診療ガイドラインや診療実態に則したものとなっているか検証します。さらに、指定難病であるにもかかわらず、難病申請がされずにいることがないよう普及・啓発活動、診療体制の整備を行い、さらに指定難病になっていない腎臓病について、必要性に応じて指定拡大について検討していきます。

 また、本研究班で得られた知見をもとに、他の厚生労働科学研究、指定難病制度普及、日本医療研究開発機構(AMED)研究事業、小児腎臓、血管炎研究班などの研究とも密な連携を確立し、より効果的なものとなるよう運用していきます。他学会とも連携し、腎臓病だけでなく、全身がより健康で長生きできる生活をおくるための研究となることを目指していきたいと考えています。また、小児期からの腎臓病のお持ちの患者さんに対し、小児科から腎臓内科への移行(Transition)がより円滑に行われるように活動していきます。

 これらの検討を通じて、腎臓病の患者さんやご家族がよりよい健康な生活を送ることができるような研究を進めていきます。本研究によって得られた成果は、本ホームページを通じて、公表します。多くの皆様によく知っていただければ幸いです。

研究班班長 大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 猪阪 善隆

研究班班長
大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学
猪阪 善隆